「ST,在宅やってるってよ」その72
前回「個人因子」のお話をしましたが、
今回もちょっと関連して「個別の対応」についてです。
例えば嚥下リハビリテーションには「王道」のような確立されたものがある程度あります。
「水分にリスクがある人は3CCから」、「一口一嚥下」、「意識レベルはJCS1桁」
などの様なものです。チャート化や標準化となると致し方ない部分もありますし、
基本的な理解としては非常に有用ではあります。
ただ、疾患特性によっては異なります。
また疾患によって施した術式によっても変わったりします。
例えば輪状咽頭筋切断術をすれば誤嚥をしなくなる訳ではないし
喉頭閉鎖術と喉頭全摘術でもゴックンを必要とするか否か、だったり咽頭部の残渣物の残り方や
衛生状態の管理方法も変わってきます。
術式によっては咽頭期をスキップして準備期・口腔期に重点的にアプローチする、という計画も成り立ちます。
また個別性、例えば自身で長年障害と向き合う中で体得した独自の方法もあったりします。
例えば
先天性疾患からの嚥下障害に親子で長年培ってきた食べ方、などもあります
例えば
ALSの方で
口腔内圧が掛かりにくく送り込めない方で、咽頭期が比較的強い方であれば
口腔内に多量の食物を入れて食物を口腔内圧を高める代償として少量ずつ送り込んで食べている、ということもあります。
例えば
認知症の進行から丸飲み、2口量が入らないと「ゴックン」の動きが誘発されにくい
という方もおられます。(咽頭期は食物テクスチャーが適応内なら大丈夫な方)
王道セオリーから「一口量が多すぎます!」とその食べ方を全体を見ずに否定すると
その時点で、その方の経口手段は絶たれることもあるのです。
また前述の喉頭閉鎖術・喉頭全摘術で気道侵入を防いでいるからこそ、
口腔から食道までを一本の通り道として活用することで、自ら送り込む筋力が無くなっても重力を用いて合間に徒手的に味わいや気流で匂いを感じながら食を「味わう」という方も
おられます(*私の方で2019年に日本摂食嚥下リハビリテーション学会で発表させてもらったケースもそうでした)
コミュニケーションに関しても「コエステーション」*2「ボイスター」*3などが登場し、音声再現技術の向上で「声の温存」がターニングポイントになりやすい喉頭閉鎖術と喉頭全摘術の判断も少し変わっていくかもしれません。(そこを最終的に決めるのは当事者さん・ご家族ですが)
増えていく選択肢、その内容を把握して提示出来るのが
専門家であり、個別に独特に障害と歩んできた方法に
柔軟な視点で対応するスキルが望まれる様に感じます。
*1日本嚥下リハビリテーション学会(2019)抄録
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/meeting/annual_meeting_no22_abstracts.pdf
*2コエステーション
*3ボイスター
https://voistar.jp/

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